【学術活動】経結膜下眼瞼形成術の適応と限界
●第66回日本形成外科学会総会・学術集会(特別企画 / シンポジウム)
シンポジウム6
高齢者の形成外科~アンチエイジングへの取り組み~
【経結膜下眼瞼形成術の適応と限界】
目の下の加齢による変化として、目の下のふくらみである《目袋(バギーアイ)》と、ふくらみの下のくぼみ《tear trough》があります。
下眼瞼形成術について
ハの字やまるいかたちのくぼみ《tear trough(ティアトラフ)》部分にあるスジ状の組織や《眼輪筋》をはずす《ティアトラフリリース》をおこない、さらにその部分に眼球のまわりにある《眼窩脂肪》を移動させることで目の下を平らにならすことができるのが下眼瞼形成術(通称:ハムラ法)です。
(引用文献)Extended Transconjunctival Lower Eyelid Blepharoplasty with Release of the Tear Trough Ligament and Fat Redistribution. Wong CH, Mendelson B. Plast Reconstr Surg. 140. 2017
経結膜下眼瞼形成術について
皮膚を切開しないアプローチでこの手術をおこなうのが《経結膜下眼瞼形成術》です。はじめてこの《経結膜下眼瞼形成術》を報告した形成外科医のひとりであるUCLAのDr.Kawamotoの方法に準じて手術をおこなっています。
Dr.Kawamotoの方法では頬の皮膚側に出した糸を戻して中で結紮することにより短時間で手術を行うという非常に合理的な方法であるが、頬のえくぼ状のくぼみが2〜3週持続することがあったため(米国と日本で入手できる縫合糸の違いによると思われる)、現在は結膜の切開部から縫合する内固定法に変更しています。やや狭い術野で縫合をおこなう必要があるため、ルーペやマイクロサージャリー用の器具を使用しています。
(引用文献)The Tear “TROUF” Procedure: Transconjunctival Repositioning of Orbital Unipedicled Fat. Kawamoto HK. Plast Reconstr Surg. 112. 2003
手術の実際
経結膜下眼瞼形成術における手術のステップ(発表では動画供覧)は下記のとおり。
1結膜側の切開より術野を展開する
2眼窩縁(arcus marginalis)近傍で眼窩隔膜を切開する
3眼窩縁近傍でtear trough ligament(ティアトラフリガメント)および内側の眼輪筋起始部を切離する(内側ではリガメントに加え眼輪筋がある。これらを充分に切離することで上唇鼻翼挙筋が確認できる。これが剝離が完了したメルクマルとなる)
4弁状の眼窩脂肪を眼窩縁を越えさらに尾側に縫合固定する
5結膜の縫合
患者の年齢と経結膜法の適応について
年齢による適応の違いについては30代、40代についてはほぼ全例で経結膜法で良好な結果が得られるのに対し、50代以降で皮膚弛緩や眼輪筋弛緩、軟部組織の下垂が目立っている場合には追加の治療が必要な場合があります。ただし、皮膚切開をおこなわないため回復が早く、外反リスクの高い症例でも適応が可能というメリットは大きく、ダウンタイムが短いために患者満足度も高いと考えられます。
【症例】
30代、経結膜法(上:術前、下:術後半年)
経結膜下眼瞼形成術の限界
《経結膜下眼瞼形成術》適応の限界として以下の点があげられ、単純な靱帯の切離や眼窩脂肪移動のみでは満足な結果が得られない例もあります。対処法をそれぞれ示します。
●頬部のボリューム不足
眼球やまぶたよりも頬が陥凹している《negative vector》症例では、下眼瞼形成術のみでは良好な結果が得られないことがあります。著しい骨格性の変形や咬合異常を伴う《hypomaxilla / dish face》では骨格の治療を検討するころも選択肢になります。また、中等度から軽度の頬部のボリューム不足に対しては脂肪注入などによるボリュームの付加で改善が得られます。
【引用文献の症例】目の下や頬へのボリュームを付加することによって目の下のくまの改善が得られる。下の文献に示されている症例では、インプラント(人工物)を用いたボリュームの付加が行われており、下眼瞼形成術はおこなわれていないが目の下のくまが改善している。
(引用文献)Facial skeletal reconstruction using porous polyethylene implants.
Yaremchuk MJ. Plast Reconstr Surg.111. 2003
●皮膚や眼輪筋のたるみ、下垂
50代以上で大きなバギーアイや皮膚のたるみがある場合には経結膜法のみでは改善しません。とくに眼輪筋の下垂は《festoon》と呼ばれ、手術以外での改善は難しいこともあります。この場合はやはり経皮法で筋肉のつり上げ固定、皮膚のトリミングが必要となります。
【症例】
60代、経皮法(上:術前、下:術後半年)、皮膚のトレチノイン治療を併用
●皮膚の色調(青くま)
青くまとよばれる目の下の三角形の色味(赤紫または青紫色)については、多少改善する場合もあるが完全に消えることはありません。
●皮膚のたるみ、小じわ
目の下の皮膚の小じわについては《経結膜下眼瞼形成術》で凹凸を改善させたのちに、皮膚のピーリングやレーザー治療を併用することで改善が可能です。
まとめ
●経由結膜下眼瞼形成術の適応
下眼瞼形態の個人差によらず汎用性が高い
高齢者に対しても適応可能な場合がある
外反のリスクが高い症例でも適応可能
●経結膜下眼瞼形成術の限界
negative vector
大きなバギーアイ・眼輪筋弛緩
下眼瞼の色調変化
皮膚弛緩(小じわ)
執筆
山下 明子 医師
YAMASHITA, Akiko
顔のクリニック金沢 院長
経歴:
岐阜県出身
平成15年 富山医科薬科大学(現富山大学)医学部卒業
同年 金沢医科大学形成外科入局
平成18年 産業医科大学形成外科留学
平成26年 金沢大学皮膚科形成外科診療班
平成29年 顔のクリニック金沢専任医師
形成外科 専門医
日本美容外科学会(JSAPS) 専門医
金沢医科大学形成外科学 非常勤講師
※合併症やリスク:薬剤のアレルギー、出血、感染・異物反応、結膜充血、結膜浮腫、眼瞼内反、眼瞼外反、複視
※費用(自由診療)
お問い合わせ・ご予約
TEL 076-239-0039
10:00 a.m. ~ 18:00 p.m.
※費用はすべて消費税込みで表示しています。
※厚生労働省のガイドラインに準拠して治療の詳しい内容、費用、合併症等を記載したうえで、術前・術後の写真を掲載しています。